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湿原

奥会津には尾瀬をはじめ数多くの湿原が存在する。日本の湿原の80%がある北海道とは比べようも無いがそれでも引き寄せられてしまう。
自身が訪れた所だけでも尾瀬(一部)、矢ノ原湿原、宮床湿原(みやとこしつげん)、駒止湿原(こまどしつげん)、田代山湿原がある。いずれも日本の重要湿地500に選出されている。湿原の感じ方は人により違うのであろうが、私は湿原に立つと強い静寂を感じる。例えば川や滝は常に水の音が響く。樹林は風が吹けば樹冠を揺らすし、枯れ木の落下音が時おり驚かせる。片や湿原は音を出すことに関して頭上が開いており湿原自体はもとより、植物、生き物に左右されることは少ない。人がいるか風、荒天でもなければ本当に無音である。だから早朝の湿原は好きであり、同時に恐怖を感じる。
無音の世界、望んでいたようで実は厳しい世界なのかもしれない。写真を撮っている間は草花、風景に夢中で周りの状況など目に入らないが、ふと気づくと自分一人で何も聞こえない。蝶、カミキリは見えるが、雲は流れるが。
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写真:福島県大沼郡昭和村 矢ノ原湿原 矢ノ原沼




通常、人の可聴域は20Hzから20,000Hzといわれる。しかし、人類は誕生した瞬間これより高音の音を常に聞いていて、耳では聞こえないが脳が音を聞いていてこの能力を今でも感じるという。『音と文明』
音の多様性とでもいうのだろうか。現代は一般的には音はうるさいもの、煩わしいものと捉えられ、音域が特に都市部では狭まっている。しかし考えてみると、海岸の波の音、滝の爆音、樹冠の葉が擦れる音、不快と思う人は少ないと思う。
逆説的にいうわけでもないが無音、本当は音の多様性のヒントが湿原に隠れているのではないだろうか。
生物の多様性は目に見えることは多いが音の多様性は聞こえない。そもそも音の多様性は湿原には有るのだろうか、無いものだろうか。しかし、湿原の魅力を風景だけで私は説明できない。
可能性はあるのだろうか湿原にある音の多様性は。
通って感じよう。脳で。湿原の奏でる音を。


*湿地、湿原といえばラムサール条約を思い出す方も多いと思います。ラムサール条約「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」の国際条約である。日本は釧路湿原を登録地とし1980年に批准(ひじゅん)した。
後の1987年7月31日に、日本で28番目の国立公園、釧路湿原国立公園が誕生した。
しかしながら、法律では湿地(河川湿地、海岸湿地ともに)自体が単独では定義されず、その土地の付属物で間接的に守られているに過ぎないという。『自然保護法講義』
*矢ノ原湿原は約8万年前に形成され日本では二番目に古い湿原とされる。一番古い湿原は長野県の逆谷地湿原(さかやちしつげん)が約10万年前という。
*尾瀬は2007.8.30(H19)に日光国立公園から分離独立し29番目の国立公園、尾瀬国立公園となった。同時に会津駒ヶ岳、帝釈山、田代山を加える。
*ラムサール条約登録の日本の湿地 2011.8現在 37ケ所
 http://www.env.go.jp/nature/ramsar/conv/2-3.html
*日本の重要湿地500の経緯 http://www.sizenken.biodic.go.jp/wetland/
 ラムサール条約第7回締約国会議(1999年、コスタリカのサンホセで開催)にて登録湿地を2倍にすることが決議された。それにより全国500の湿地を抽出『自然保護法講義』



参考文献
辻井達一・岡田操・高田雅之『北海道の湿原』北海道新聞社
畠山武道『自然保護法講義』第2版 北海道大学出版会
木村英昭・足立朋子『国立公園は誰のものかールポ 新尾瀬を歩く』彩流社
大橋力『音と文明』岩波書店
by kazetsuki | 2011-08-21 14:31 | 湿地・湿原・沼・田んぼなど